わたしの離婚体験――。 それは十年間ともに過ごした相手の失踪から始まりました。
主人は大手食品会社に勤める普通のサラリーマンでした。共通の友人の紹介で知り合い、わりと内向的な性格だった私は彼の明るく社交的でおしゃれな面に惹かれ、彼からの熱心なアプローチを受けて知り合って半年後に交際を始めることになりました。会うたびに贈ってくれるちょっとしたプレゼントや、レストランで決してわたしに財布を開かせない紳士的な振る舞いに年上の男性の頼もしさのようなものも感じ、順調に交際を続けていましたが、今思えばこういったところにものちに見えてくる彼の病的な一面が垣間見えていたのかもしれません。ですがその時のわたしにはそれを見抜く力はありませんでした。
交際も二年ほど経ったころ、そろそろ結婚のことを考えてふたりで貯金なども貯めようというような話になり、それぞれが各自の口座に月々のお給料から少しずつでも貯金をしていこうということになりました。わたしは彼に比べるとそんなに良いお給料はもらっていなかったので毎月わずかな金額ではありましたが、少しずつ贅沢はしないようにして貯金をしていきました。一方彼はというと、口では毎月かなりの金額を貯金していると言うものの暮らしぶりは一向に変わりませんでした。彼には少し見栄っ張りなところがあり、会社の後輩の人たちと飲みに行けばすべてひとりで自腹を切り、財布の中にはお付き合いで作ったものも含め常にかなりの数のカードが入っていて、いつもそのカードで何もかもの支払いを済ませていました。そしてそれは週にたびたび行われている日常的なことでした。
数ヶ月が経ってそんな大盤振る舞いをし続ける彼に対して不安を覚えたわたしはそれとなく貯金を続けているかどうか聞きました。そしてわたしはこれくらい貯まったよ、と通帳を見せました。すると翌日彼は通帳を持ってきてわたしにそれを開いて見せました、「ほら。こんなに貯まってるよ。」と。そこには120万ほどの残高があったのですが、毎月貯めたという記載はなく、突然120万がそこに振り込まれたことしか記されていませんでした。これについては「今まで引き落としとかゴチャゴチャした口座と一緒に貯金をしていたから、これからはこの口座に貯金していく。」との説明でした。そしてその時はまさか嘘をつかれているとは露ほども思わなかったので、わたしはその言葉を信用してしまったのです。
ところがそんなある日、同じ市内に住む彼のお義父さん(この時はまだ結婚していなかったので義父ではありませんが。)から連絡があったのです。「ちょっと話があるから来て欲しい。」と。何度か面識はあったものの彼を通さずわたしに直接連絡が来たことはなかったのでびっくりしましたが、きっと大事な用なのだろうと思いすぐさま会いに行きました。そこで始めて驚きの真実を聞くことになったのです。彼が借金まみれで泣きついてきたこと、毎月利子分しか返済できていないため借りた元金はちっとも減っていかず、それをまず全額返済して欲しいと頼んできたこと、そうしてくれたら毎月必ずお金を返す、と約束したこと、などです。それを伝えたのち義父はわたしにそのことを知っているか、と尋ねてきました。もちろん寝耳に水だったわたしは放心状態のまま義父と別れ、その夜ようやく彼と話し合いの場を持ち、土下座をする彼から真実を聞くこととなったのです。月々に返すお金は大したものではなかったので大金を借りているという実感がなかった、すべて交友費などに使っていた、というような話をです。もちろん貯めていた、と嘘をついて見せてくれた通帳のお金も彼が慌ててキャッシングで借りたものでした。そして彼はその場ですべてのカードにハサミを入れ、二度とカードは使用しないと約束をしました。わたしは借金を返済し終わるまで結婚はしない、結婚するかどうかは返済してゆく態度を見て決めると彼に告げ、その日から彼の借金返済生活が始まりました。