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離婚にまつわるコラム

わたしの離婚体験――。 それは十年間ともに過ごした相手の失踪から始まりました。

 

その日からは怒涛の日々の始まりでした。わたしにはやらなければならないこと、手続きをしなければならないことが山ほどありました。加えて彼の失業中、家計を支えなければならなかったため無理をして詰め込んでいた仕事も山ほどあり、ほとんど眠ることのできない毎日が続きました。彼が働いていた頃に会社の付き合いで入った生命保険の月々三万を超える支払いの解約、所持している株の現金化、彼が放置していった車についてのすべての処理・・・その何もかもがどこに問い合わせても「本人でなければ何もお話しできない。」それの一点張りでした。あれほど疲弊した日々はなかったと今も思い返せるほど、毎日が調べたり電話をしたりの繰り返しで泣きたくても泣けないような毎日でした。

 

そんなある日、彼のお義父さんから連絡があり再び会うことになりました。会うなりたくさんの郵便物が入った紙袋を渡され、中を見るとそれらは全てキャッシング会社からの請求書でした。驚くわたしにお義父さんは驚くべきことを話し始めました。結婚する前からこれらは届いていて彼がちょくちょく家に戻っては回収していっていたこと、自分も別に不審に思うことなくそれらを仕分けしていたこと、今回の件で初めて一、二通の郵便物を開けてみてそれらがキャッシング会社からのものだと知ったこと、加えてたまにそういった会社から電話もかかってきている、などといった内容でした。わたしは驚くと同時にもう失望で目の前が真っ暗になるような思いでした。あれだけ借金で苦労して、ようやく改心してくれたと思っていたのにそれは何も変わっていなかったのです。わざわざ請求書の送り先を実家にして、わたしの目には触れないようにしていたその周到さに呆れる思いもありました。その夜、渡された紙袋に入っていた請求書を全て開封し、だいたいの借金の総額を調べると四百万ほどの金額だということがわかりました。そしてその日を境にそれらの請求書はわたしの家に届きはじめました。きっとお義父さんが電話をかけてきた請求会社に現住所を話したためだと思います。そしてそれからは今までの問題に加えてこの請求書のこともどうにかしなければならなくなってしまったのです。

 

困り果てたわたしは、経済的に余裕のない人が法的トラブルにあったときに電話をする市の無料の法律相談所のような所に電話をし、三十分の無料相談をさせてもらうことにしました。予約をとり、紹介してもらった弁護士事務所に出向いて疑問に思うことをすべて聞いてきました。結果、借金に関してはわたしには返済義務は一切ないこと、ただ失踪した相手と離婚をするのは大変難しいということがわかりました。失踪をした人間がふらりと戻ってくることは大変多いらしく、まだ相手がいなくなって数週間とたっていないわたしのようなケースでは例え裁判を起こしたとしても受理される可能性などゼロに等しく、せめて半年もしくは一年くらい経たないと打つ手はない、といった話でした。一日でも早く離婚してしまいたいのが本音でしたが、そう言われてしまった以上待つ以外手だてはなく、相変わらず電源が入っていない状態のままの彼の携帯に「離婚届にサインだけして送って欲しい。」と書いたメールを何度も送信することくらいしかわたしが他にできることはありませんでした。

 

そしてそんな毎日が一年も続いた頃、自宅で仕事をしていると突然警察の生活安全課の方から電話がきました。生活安全課の方には彼の失踪当初に何度か相談に乗ってもらっており、まさにその方からの電話でした。それも「たった今ご主人が保護されました。」という電話だったのです。一瞬心臓を掴まれたような驚きで声も出ませんでしたが、よくよく聞くと「約一ヶ月ほど前からこちらに帰ってきており、免許の更新をした運転試験場で“失踪人”としてデータ登録されていたためすぐに保護された。」ということでした。しかも「そちらの自宅に帰ると言っているんですが、どうされますか?」とのことでした。とにかく頭の中がパニック状態でしたが、ただひとつハッキリと思っていたのは「ここで絶対に逃がしてはいけない。」ということでした。この一年間で失踪した人間と離婚をすることがどんなに難しいか、確証がないまま待ち続けることはどんなに辛いかを体験してきたわたしにとって、彼が見つかったことはまず離婚ができることへの希望の光でした。そこで電話の向こうの生活安全課の方に彼が間違いなく逃げられる状況ではなく今そこにいることを確認し、十分後に彼からこちらに電話を入れてもらうよう頼みました。たった十分ではありましたが、言わなければならないことをまとめ、怒りを鎮めたり感傷的な気持ちを静めるには十分な時間でした。なんとか気を落ち着かせたところに電話が鳴りました。出ると小さな声で「・・・ごめんなさい。」と彼は言いました。久しぶりに聞く声でしたがこの一年で彼に感じていた不信感が勝って何も感じることはありませんでした。わたしはただ淡々と、こうなった以上もう責めるつもりはないし、お互い様だと思うけど続けるつもりもないから離婚して欲しいということを伝えました。彼はその間中ずっと「はい。はい。」と小さな声で言っていました。そして離婚届けはわたしがもう用意してあることを伝え、明日こちらに出向いて必ずサインをすることを約束させ、その場で現在の携帯番号をわたしと生活保護課の方に伝えさせました。そして最後に「わたしはあなたにずっと嘘をつかれていたけど、明日来るという約束だけは破らないで欲しい。」ということを伝えて電話を切りました。切ったあと、緊張のためか両手が氷のように冷たくなっていました。

 

その後わたしはすぐに実家の父と母へ連絡しました。彼が見つかったこと、明日会って離婚届にサインをしてもらうことを伝えました。二人ともとても喜んで、母などはすぐにタクシーでわたしの家まで来てくれました。事情を話し、明日二人だけで会うことを話すと強く反対し、母はせめて自分だけでも同席させて欲しいと言いました。失踪するような人間はその場で何をしでかすかわからない、というのが母の主張でした。正直とても心強く、有難い申し出でしたがわたしはどうしても二人きりで話がしたいと言って断りました。彼がそこまで大それたことができる人間だとも思っていなかったし、わたしには彼にどうしても正直に話して欲しいことがあったのです。なぜ失踪という手段を選択したのか、そして一年間どこで何をしていたのか、実家に送付されていた請求書の借金は一体何に使っていたのか、といったことは一年間わたしがただの一日も考えなかった日はないほど知りたくて仕方がなかったものでした。わたしの結婚生活は突然映画の途中でスクリーンが真っ暗になってしまったように宙ぶらりんのままでした。真実さえ聞ければどこにぶつけたらいいのかわからず苦しんだこの気持ちをほんの少しでも救えるような気がしていました。この気持ちを終わらせるには相手から真実を聞くしかない、最後くらいは本当のことを言ってくれるはずだからと母を説き伏せ、明日を迎えることになりました。

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