養育費が不払いになったら
○まずは状況確認から
離婚時に子どもに対する養育費の取り決めをしていたにもかかわらず、元夫からの養育費の支払いを受けられなくなってしまったら、どのように対処すれば良いでしょうか。
例えば、月々の支払い日が決まっているのに、支払い日当日に元夫からの入金がなかった場合、それが初めてであれば、「うっかり忘れたのかな」と考えることもできますが、次の月の支払い日になっても入金がなく、なおかつ元夫からその件について何の連絡もない場合は、元夫自身が何らかの理由で「入金しなかった」と考えるべきでしょう。
そういった場合、「養育費の取り決めを公正証書にしているから大丈夫!」、「払わないなら、すぐにでも強制執行を!」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、相手に理由も聞かず、問答無用で強制執行の申し立てをするのは、元夫との関係悪化を助長する場合も多くあるので、得策であるとは言えません。養育費は、子どもが自活できるようになるまで、長ければ10年、20年のあいだ受け取りを続けなければならないものです。長期間に渡って円滑な支払いを望むのであれば、たとえ夫婦関係は解消していても、子どもの両親として、ある程度の信頼関係は失わないよう、心がけておくことが大切なのではないでしょうか。
まずは元夫に対して、電話、メール、手紙などで、養育費を支払わなかった理由を聞いてみることから始めるのが妥当であると言えるでしょう。手紙で確認を行う際は、「内容証明郵便」を利用すれば、「いつ、どのような内容の文書を誰が誰宛てに送ったか」を、郵便局が証明してくれるので、相手が「そんな手紙は受け取っていない」と言い逃れをすることを防ぐ効果があります。内容証明郵便は、一般の手紙と異なり、文字数や行数などの書式が決まっているため、あらかじめ確認してから作成する必要があります。
○元夫の親に養育費を請求できるか
元夫から養育費の支払いが滞った場合、元夫と連絡が取れない、あるいは直接連絡を取りたくない場合は、元夫の親に連絡して、状況を確認することも一つの手段であると言えます。ただし、元夫の親に養育費を肩代わりしてもらおうと考えるのであれば、注意が必要です。養育費の取り決めをした際、債務者である元夫の連帯保証人になっているという場合でない限り、元夫の親には、養育費を支払う義務はありません。
○強制執行、調停には相手の住所が必要
さまざまな連絡の手段を尽くしても、元夫から返事がない場合、強制執行約款付の公正証書、調停調書、審判調書、判決書、和解調書といった債務名義がある場合は、強制執行による養育費の取り立ての手続きを検討することになります。ただし、その前段階として、元夫の側に債務名義の存在自体を知らせておく必要があるため、「送達」という方法で郵送による交付を行います。そのためには、元夫の現住所を把握しておくことが必要になります。
また、養育費の取り決めを口約束、または念書などのような債務名義でない文書でしか残していないという場合は、最終的には家庭裁判所に対して、養育費請求のための調停を申し立てることになりますが、この場合も、調停を申し立てられた側の夫に対して、家庭裁判所から調停の申し立てがあったことと調停の期日を知らせる呼出状を送付する必要があるため、元夫の現住所が必要となります。
○財産開示手続きによる財産の把握
元夫からの養育費の支払いが滞った場合、強制執行約款付の公正証書、調停調書、審判調書、判決書、和解調書といった債務名義がある場合でも、支払う側(債務者)である元夫に強制執行が可能な財産がなければ、養育費の回収は困難となります。
そのため、強制執行の申し立てを行う前段階として、元夫がどのような財産をどのくらい持っているかを把握しておくため、元夫の住所を管轄する地方裁判所に対して、「財産開示手続き(民事執行法196条~203条)」の申し立てを行うことができます。
裁判所は、財産開示手続きの申し立てを行った申立者、債務者を財産開示期日に呼び出し、出頭した債務者は、所有している財産についての陳述をしなければなりません。また、申立者も債務者に対して、財産について質問をすることができます。