公正証書の作成時期
○養育費の取り決めは離婚時に公正証書にする
養育費の取り決めを公正証書で残しておきたいという場合は、慰謝料や財産分与、年金分割など、離婚時に必要となる金銭的な取り決めや、親権者、離婚後子どもと別居する側の親と子どもとの面会交流について等を記載した、「離婚給付公正証書」を作成します。あらかじめ、双方で離婚に向けた話し合いを行い、それぞれの取り決めについてお互いにおおむね合意した段階で、その内容を法律的に有効な書面に残しておくというのが一般的です。
○離婚後に養育費の取り決めをしたい場合
離婚後に「養育費の取り決めをしたい」と思い立った場合に、離婚給付公正証書をつくることも不可能だとは言い切れませんが、公正証書は、当事者双方(養育費の場合は子どもの両親)がその内容に合意した場合にしか作成することができません。
離婚後に養育費の取り決めを思い立ったということは、支払う側からの養育費の不払いがすでに発生しているか、もしくは養育費を受け取る側が「不払いになるのではないか」と懸念を抱いているといった場合であることがほとんどであるため、支払う側が、強制執行による養育費の取り立てが可能となるような公正証書の作成に合意しないケースが多いと言えるでしょう。
離婚給付公正証書は、離婚時の取り決めを公文書として残しておくことで、離婚後に争いやトラブルが生じることを防ぐものであり、仮に争いやトラブルが発生した場合には、法律的な解決方法を取るために有効に使うことができるのです。
離婚後に養育費の取り決めをしたい場合は、当事者同士で話し合いができるようであれば協議を行い、合意できなかった場合、もしくは話し合い自体ができないという場合は、家庭裁判所に対して、養育費請求のための調停を申し立てることができます。調停で話し合いがまとまらず不成立となった場合は、裁判所が審判によって決定を出します。
○公正証書を紛失したら
仮に、当事者が公正証書の正本を紛失してしまった場合でも、公証役場に保管されている公正証書の原本の写しを請求することができます。
○公正証書の時効
・養育費の時効
現在から、養育費を受け取ることができる期間が終了するまでの養育費請求権には、時効はありません。例えば、夫婦で養育費の取り決めをしないまま離婚した後、子どもを養育する側の親権者が母子家庭となり、元夫に対して養育費の支払いを求めないまままとまった年数が経ってしまった場合でも、子どもが自立して自分で生活できるようになるまでの間であれば、元夫との話し合いや調停・審判を経たのち、養育費の受け取りを開始することができます。ただし、話し合いを経たのちの作成された公正証書、調停・審判で作成された調停調書・審判書には、それぞれに債務名義としての消滅時効があります。
・公正証書の時効
父母のあいだで子どもの養育費についての取り決めを行い、その内容を記載した離婚給付公正証書は、支払う側からの支払いが滞った場合でも、受け取る側が権利を行使せず、時間が経過してしまった場合は、5年で消滅時効となり、請求することができなくなります。(民法169条 定期給付債権の短期消滅時効)
ただし、受け取っていない養育費の全てが時効になるわけではなく、支払期日から5年経ったものについて、もらう権利がなくなるということになります。例えば、「月額5万円を毎月20日までに振り込む」というような形で養育費の取り決めをしている場合、支払期日はその月ごとに異なるので、支払期日から5年が経過していない分の養育費は、支払いを求めることができます。
・調停調書・審判書、判決書、和解調書の時効
調停調書・審判書、判決書、和解調書といった、裁判所で作成した債務名義の消滅時効は10年です。(民法174条の2 判決で確定した権利の消滅時効)
・消滅時効の意味
債権の消滅時効は、支払う側が「時効が成立しているから支払わない」と主張した場合に成立します。そのため、例えば、支払う側が時効に気が付かない、または消滅時効の存在を知らないなど、自身にまだ債務があることを認めている場合には、受け取る側は、その支払いを求めることができるということになります。
○調停で決まった養育費の受取開始時期
裁判所に対して、養育費請求のための調停または審判の申し立てを行い、調停または審判によって養育費を受け取ることが決まった場合、受け取りを開始することができる時期は、「審判または調停の申し立て時から」とされる場合が一般的であるようです。