数日後、夫の母親から電話がありました。あの後、夫が『作り話』の事を両親に問い詰めたのかどうか分かりませんでしたが、「すぐに会って話したい」と言われました。夫の両親に、こちらの家まで来てもらいました。夫の荷物と家具だけが不自然になくなっている家の中を見て、二人とも悲しそうでした。夫の両親に対しては、あの作り話以来不信感を持っていたので、正直、早く帰って欲しいと思いました。私のほうから「話って何だったの？」と聞くと、夫の母親が、「お父さんと二人で話し合って決めたことがある」と言い出しました。「要するに、離婚しないで欲しいって事？」と聞くと、夫の母親は首を横に振り、「息子を勘当して、あなたを養女にしたい」と言ってきました。私はびっくりして、言い返す言葉がすぐには出てきませんでした。母親は続けて、「本当に、あの子の親として、あなたにはとても申し訳ないと思っている。でも、あなたや私達を苦しめたのは息子。あの子が全部悪い。あの子は、勘当されて当然の事をした。あの子には、あなたに慰謝料を払ってもらって、私達の前からもいなくなってもらいたい。そしてあなたを、私達の家に迎え入れたい」と言いました。夫の父親はそれを黙って聞いているだけでしたが、時折ウン、ウンと頷いていました。前に、夫の母親が電話で「味方でいてね」と言ったのはこの事だったのかと、その時思いました。夫の両親は、私を養女にして、実の息子を捨てると言い出したのです。私はそれを聞いて、自分の中で何かに決着がついた気がしました。言い方は悪いですが、この人達に、これ以上付き合っていられないと思いました。自分の人生なのだから、他人に振り回されずに、自分の意思で生きていかなければと･･･。夫の両親には「とりあえず、今日は疲れてるので帰って下さい」と言いました。一人になった後、夫の両親に対して、怒りがわいてきました。そして勢いにまかせて、本棚にしまってあった離婚届を引っ張り出して、自分の名前を書きました。その後すぐ、夫の携帯に「サインをしたから、明日取りに来て欲しい」とメールを送りました。なんだ、あんなに恐がっていたのに、やればできるじゃないか。と、心の中で自分に言いました。それ以降、夫の両親に会うことはありませんでした。

 

新居に引っ越すのと同時に、会社を辞めました。送別会で離婚の事を話すと、皆、「離婚なんて最近はよくある事だし、誰もバカになんてしないから、辞める必要ないのに」と言ってくれました。よく聞いてみると、離婚経験がある身内がいるという人が数人いました。「姉がシングルマザーだけど、頑張って一人で子育てしてるよ。あなたもいつか、子どもを産めたらいいね」と言ってくれた人もいました。ただ単に世間体が悪いという思い込みだけで会社を辞めてしまった自分が情けなくなりましたが、新しい人生をスタートさせるために必要だったんだと思い直すことにしました。